冬の夜空は豪華版
さらに3ヶ月ほど季節を進めてみましょうか。ペガススの四辺形が西へ傾く頃になると,少し寂しげな秋の星空を追うように,東から冬の星座たちのにぎやかな顔がのぞきます。
そう,澄んだ冬の空には,合計7個もの1等星が燦々と輝いているのです。関東以南の地方では,さらにもう一つ。南の地平線すれすれに輝くカノープスという星が加わり,1等星は合計8個となります。にぎやかなはずですね。
そんな明るい星たちでいっぱいの冬の空ですから,春夏秋の星座を見てきた皆さんには,もう簡単に星座がたどれることと思います。早速,昇ってくる順に星座を追ってみましょう。
まず最初に冬の訪れを告げるのは,ぎょしゃ座の大きな五角形と,そこに輝く1等星カペラです。カペラは一番北にある1等星で,その少し黄色みを帯びた輝きが,ぎょしゃ座に暖かみのある柔らかな印象を与えています。
次に昇ってくるのは,銀色の三角の雲のように見えるプレアデス星団(すばる)や,赤い1等星アルデバラン含むおうし座の星たち。
アルデバランはおうしの目に当たりますが,その周辺のV字型の星の並びはよく目立ち,ヒアデス星団と呼ばれています。プレアデス星団もヒアデス星団も,生まれたばかりの若い星々が集まっている姿です。
プレアデス星団の和名“すばる”は有名なので,聞いたことのある方も多いことでしょう。これは首飾りの玉のことで,美しくて目立つプレアデス星団には,他にも“はごいた星”など多数の和名が見つかっています。
おうし座の東側には,ふたご座とオリオン座がほぼ同時に昇ってきます。
ふたご座は,まず明るい2つの星,カストルとポルックスを見つけましょう。そこから2列の星の並びが,双子の兄弟の足へと向かって伸びています。カストルは2等星,ポルックスは1等星に分類されていますが,実際に見るとカストルが若干暗いだけで,ほとんど同じような明るさです。
ふたご座の2列の星の並びは,日本では門柱星と呼ばれていました。
オリオン座は,やっぱり有名な三ツ星が目につきますね。三ツ星を囲むようにして,2つの1等星と2つの2等星が四角形を作っています。三ツ星の下には,縦に3つの星が並んでいますね。これは“小三ツ星”と呼ばれていますが,真ん中の星をよく見てみましょう。ボーッとかすんで見えます。実はこれは星ではなくて,オリオン座大星雲(M42)と呼ばれる散光星雲なのです。双眼鏡があったらぜひ覗いてみましょう。
オリオン座にある2つの1等星の名前は,左上の赤い星がベテルギウス,右下の青白い星がリゲル。
この二つの星が三ツ星を挟んで対立しているように見えるため,日本では,赤と白の色の対比を源平合戦の赤旗・白旗に見立て,赤いベテルギウスを平家星,白いリゲルを源氏星と呼んでいました。
最初に昇ったぎょしゃ座が天頂付近に達しても,冬の星座はまだまだ続きます。
今度昇ってくるのは,1等星プロキオンを含むこいぬ座。狩人オリオンが従える猟犬の姿です。
プロキオンは黄色みを帯びた白い星で,“犬の先駆”という意味を持っています。ここでいう“犬”とは,プロキオンより十数分遅れて昇る“ドッグ・スター”(Dog Star,犬星),即ちおおいぬ座の“シリウス”のことです。
シリウス。聞いたことがありませんか?
シリウスは,太陽を除く恒星の中で一番明るい星として有名です。冬の星座のとりを飾るのは,そのシリウスを持つおおいぬ座なのです。次々と昇ってくるたくさんの1等星の一番最後に,一番明るく輝く星を昇らせるのですから,冬の空はなかなかの演出上手ですね。
シリウスという名は,“焼きこがすもの”という意味です。シリウスは日本から肉眼で見える星の中で一番近い星で,8.6光年。その距離の近さが明るさの原因の一つになっています。
環をつなごう
では,冬の1等星たちを結んでみましょう。色々な形を楽しむことができます。
まずは,春にも夏にもあった三角形。“冬の大三角”は,オリオン座のベテルギウスとこいぬ座のプロキオン,そしておおいぬ座のシリウスで作る正三角形。真ん中を,淡い冬の銀河が流れます。
それから今度は,シリウス,プロキオン,ポルックス,カストル,カペラの五つを繋いでみましょう。弓のような半円形ができますね。これは“シリウス大円弧”。
次は,一番高いカペラから,アルデバラン,ベテルギウス,リゲル,シリウスと結びます。冬(Winter)の頭文字“W”の字を描くので,これは“ウィンター・ダブリュ”と呼ばれます。
最後は,1等星たちに勢揃いしてもらいましょう。シリウス,プロキオン,ポルックス,カペラ,アルデバラン,リゲルを繋ぎます。ベテルギウスを囲む大きな六角形ができました。これが“冬のダイヤモンド”。光り輝く豪華なダイヤモンドですね。
長寿の星カノープス
最後に,冬の8番目の1等星をご紹介しましょう。最初にもお話ししたカノープスです。
カノープスはりゅうこつ座のα星。実は,シリウスに次いで全天で2番目に明るい1等星です。けれど南の空にあるために,関東地方より北では見ることができません。(ギリシャ文字のアルファベットの読み方)
南に低いカノープスは見つけることが難しいため,中国では一目見ると寿命が延びる吉星と言われてきました。日本の関東地方より南では,地平線ぎりぎりのところに光るカノープスを見ることができます。残念ながら地平線近くの低いところでは,星の光は大気によって減光され,せっかく見つけてもカノープスの全天2番目を誇る明るさを堪能することはできませんが,ぜひ探してみましょう。
カノープスを探す目印は,おおいぬ座の尻尾にあたる3つの2等星です。三角形を南に向かって3等分し,右側の線をまっすぐ南に下ろします。南の開けているところなら,カノープスが見えるはずです。
おおいぬ座が真南に来る時間を見計らって探してみましょう。
空が澄んでいる冬は,星も美しく見える季節です。しっかり防寒して豪華な冬の星空を堪能しましょう。