えんぺいを見てみよう

“えんぺい”とは?

 皆さんは,“えんぺい”って言葉を聞いたことがありましたか? あまり耳慣れない言葉ですね。

金星食が終わった直後の写真
金星食が終わった直後


 えんぺいとは“掩蔽”という字を書きます。“掩”も“蔽”も,訓読みすると同じおおう(掩う,蔽う)と読む字です。“おおう”は,物の上に別の物をかぶせて隠すことですね。何かを想像しませんか? そう,日食や月食です。日食では月が太陽をおおい隠し,月食では地球の影が月をおおい隠します。えんぺいは,“星食”(せいしょく)とも言って,月が星をおおい隠す現象のことです。

 では,えんぺいが起こるしくみを考えてみましょうか。

 星々(恒星)は,1年かけてゆっくりと天球上を一周しますね。ですから毎年同じ季節には同じ星が同じ位置に見えています。けれども月は,約29日で天球上を一周しています。単純に計算すると,月は恒星より12倍以上(365日/29日)も速いスピードで天球上を動いていることになりますね。
 そういうわけで,月は星々を追い越しながら天球上を進んでいきます。月はどの星よりも近いので,星々は,追い越されるとき月の後ろに隠されてしまうのです。月の近くにある星を見ていると,月の東側にある星はどんどん月に近づき,逆に西側にある星はどんどん月から離れていく様子がわかります。

 下の図は,2017年12月9日の午前中に起こる白昼のレグルス食の様子です。

2017年12月9日 レグルス食
2017年12月9日 レグルス食

 ときどき,月が惑星を隠すえんぺいが起こることもあります。惑星も月よりずっとゆっくりした速度で天球上を動いていますから,月に追い越され,隠されてしまうのです。明るい惑星のえんぺいは肉眼でもよくわかりますし,また,惑星は面積を持っていて特徴のある模様や形をしているために,望遠鏡で見ても楽しい現象となります。三日月型をした金星が三日月に隠されていく様子とか,美しい環を持った土星が月と並んだ様子を想像してみましょう。是非見てみたくなりませんか?
 惑星のえんぺいは,“金星食”(きんせいしょく)とか“木星食”(もくせいしょく)などのように,隠される惑星の名前で呼ばれています。

 かつては,月の動きを正確に測定するため,この“えんぺい”が利用されたものでした。もっとも最近は,レーザーと月の上に置いたコーナーキューブ(プリズムを用いた反射鏡)を用いて測定されています。


えんぺいの見える条件は?

 星は無数に存在していますが,えんぺいはそう度々見られる現象ではありません。では,えんぺいが見えるには,どんな条件が必要なのでしょうか?

 満月の夜を思い浮かべてみましょう。月が煌々と輝く夜は,月明かりに埋もれて星の数がとても少ないですね。月の光は非常に明るいのです。このため,月のそばに暗い星があっても見ることができません。
 えんぺいでは,月のすぐ近くにある星を見なくてはならないので,かなり明るい星でないと見ることが出来ないのです。えんぺいが起こる時の月齢にもよりますが,えんぺいが見えるためには,だいたい6等星より明るい星であることが必要です。

 さて,これ以外にはどんな条件があるでしょう?
 月に隠されるためには,星が月の通っていく道である白道の上に存在しなくてはなりません。6等星より明るい星は全天にたくさん存在しますが,白道上にある星はそう多くはないのです。また,せっかくえんぺいが起こっても,昼間だったり,月が昇ってくる前だったりしたら,見ることはできませんね。
 このような厳しい条件をクリアして,日本で条件のよいえんぺいが見えるのは年にせいぜい10回程度です。


えんぺい観察ポイントは?

 一口にえんぺいと言っても,月の大きさ(月齢)や隠される星の明るさによって随分と見え方が違ってきます。えんぺいを観察するときは,えんぺいの開始時刻や終了時刻と共に,これらの情報もしっかり調べておきましょう。また,えんぺいは,観測できる場所が限られていることが多いので,自分の住んでいる場所から見えるえんぺいなのか,どこまで行ったら見えるのかについても調べる必要があります。明るい星が隠される珍しいえんぺいならば,少しばかり遠くまで出かけても見る価値があるかもしれませんね。
 えんぺいの詳しい情報は,『天文年鑑』『理科年表』 のほか天文雑誌,インターネットのデータベース等で調べることができます。

 情報を調べたら,観測計画をたてましょう。
 もちろん月齢によりますが,明るい星,そうですね,2等星か3等星くらいまでの星が隠されるえんぺいならば,肉眼で十分観察できるでしょう。双眼鏡があると,なおわかりやすいですね。
 もっと暗い星ならば,双眼鏡か小さな望遠鏡が必要になってきます。隠されるのが惑星ならば,肉眼でも観察できますが,小さな望遠鏡で見ると惑星の模様や形が分かり,またそれらが月に順番に隠れていく様子もよく観察できるので面白いでしょう。

 月は満月を除いて必ず西か東が欠けていますから,えんぺいの時,星が入る側か出てくる側のどちらかは月の暗い部分であることになります。月の明るい部分と星がくっつくのを見るのも楽しいですが,真っ暗に見える月の夜の部分から,星がぴょっこり現れたり,あるいは突然消えたりする様子を観察するのもなかなか面白いものですよ。


 さて,次に起こるのはどんな掩蔽(えんぺい)でしょう? 当サイトの星空情報では条件のよい星食が起こる日を紹介しています。

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