織姫様は夏の女王
夏。そうですね,梅雨が明ける頃の午後9時くらいに空を見上げてみましょう。
東の空高く,明るい3つの星が大きな直角三角形を作っているのが分かりますか? 小さな三角形を想像してはいけません。中に北斗七星が入ってしまうくらいの大きな三角形ですよ。暗い空なら,三角形の中を天の川が流れているのがわかります。
三角形,探せましたか? これは“夏の大三角”と呼ばれ,夏のあいだ一晩中見えている目印です。夏の大三角の頂点に光る3つの星は,こと座のベガ,はくちょう座のデネブ,わし座のアルタイル。それぞれが夏を代表する星座のα星です。
(ギリシャ文字のアルファベットの読み方)
ところで,ベガは七夕の織姫星,アルタイルは七夕の彦星です。ちゃんと天の川を挟んで光っているでしょう?
さて,ベガとデネブとアルタイルを比べてみましょう。どの星が一番明るいですか? 文句無しにベガが一番ですね。デネブやアルタイルは1等星ですが,ベガはそれより明るい0等星の輝きを持っているのです。
今度は,少し傾きかけたうしかい座のアルクトゥルス(探し方は春の星座を探してみようを参照)とベガを比べてみましょう。アルクトゥルスも0等星で,ベガとほとんど同じ明るさです。オレンジ色のアルクトゥルスと青白いベガでは,明るさが同じでも随分印象が違って見えませんか?
ベガはやがて頭のほぼ真上の位置まで昇ってきます。天頂で燦々と輝くその姿は,まさしく夏の女王様のようですね。
さそりの赤い心臓と南斗六星
次に,南の空を見てみましょうか。
丁度真南あたりに,明るい赤っぽい星が見えますね。そう,斜め上と斜め下に二つのお供の星を従えています。これは,さそり座のアンタレス。アンタレスは火星のように赤いので,“火星(マルス:Mars)に対抗する(アンチ)もの”(=アンチ・アーレス)という意味でアンタレスと名付けられました。
アンタレスを含むさそり座は,最もわかりやすい星座の一つです。アンタレスの前後に大きなSの字を描くように星が連なっていますね。しっぽを折り曲げハサミを振りかざしたサソリの姿に見えませんか? アンタレスは,丁度サソリの心臓に位置しているのです。それからサソリのしっぽのあたりを見てみて下さい。仲良く並んだ2等星と3等星がありますね。この二つの星は“猫の目”と呼ばれています。
さそり座をしっぽまでたどったら,そのまま少し東へ視線を移しましょう。
暗い空なら,夏の大三角の中を通って流れてきた天の川が,サソリのしっぽの東で一段と濃くなっているのがわかることでしょう。この天の川が濃くなっている方角が,私たちの住む銀河系の中心方向にあたります。だから星がたくさん見えているのです。
さて,このあたりにも明るい星がいくつか見えていますね。北斗七星を小さくしたように並ぶ六つの星に気がつきませんか?
これは,いて座の中にある南斗六星と呼ばれる星たちです。中国の神話では,北斗七星が死を司る神,南斗六星は生を司る神で,人が生まれるときにはこの二人が話し合って寿命を決めると信じられてきました。
また,西洋では,南斗六星をミルク・ディパー(乳さじ)と呼び,天を流れる大河ミルキィ・ウェイ(天の川)のミルクをすくうスプーンと見ています。遠い国で,六つの星を同じように結んでいたのは面白いですね。
ところで,南斗六星を含む いて座とは,弓を引く射手のことです。星図を見ながら星々をつないで,射手の姿を見つけてみましょう。弓と矢の形が,意外ときれいに浮かび上がってくると思います。
それでは次に,射手が弓矢で狙う先をたどってみましょうか。そう,そこにあるのはアンタレス。サソリの心臓です。いて座の矢は,いつも隣のサソリの心臓をねらい,天の暴れん坊であるサソリが悪さをしないように見張っているのです。
他にも見所がいっぱいで,夏の星空は盛りだくさん。夏休みには,ぜひ空の暗いところへ出かけて星を見てみましょう。
夏は,一年で最も流れ星が多い季節です。流れ星を見てみよう と ペルセウス座流星群 のページもご参考にどうぞ。