「半夏生」は雑節の一つ,また七十二候の一つです。
雑節の半夏生(はんげしょう)は,太陽の黄経が100度に達する日。
旧暦時代は夏至から11日目が半夏生で,梅雨が明け,田植えが終わる日でした。「半夏半作」という言葉があり,この日以降に田植えをしても収穫が少なくなるためです。
七十二候では夏至の末候が半夏生(はんげしょうず)で,半夏(ハンゲ)が生える頃という意味です。この「半夏」にちなむ植物は2種類あります。
一つはサトイモ科のカラスビシャク(烏柄杓),もう一つはドクダミ科のハンゲショウ(半夏生)。
どちらも夏至を過ぎた半夏生の頃に花をつけます。
七十二候や雑節の由来になっているのはカラスビシャク(烏柄杓/学名:Pinellia ternata)で,日本各地に自生する多年草です。
カラスビシャクの塊茎(かいけい=植物の地下部の養分を蓄えた器官)は生薬として用いられますが,その薬の名前が半夏(はんげ)。半夏は鎮嘔・去痰・鎮静などに用いられます。
ドクダミ科のハンゲショウの方は,水辺に生える多年草。七十二候で言う「半夏生」とは異なる植物ですが,烏柄杓と同じく6月下旬から7月,七十二候の半夏生の頃に花をつけ,茎頂(けいちょう)部分が化粧をしたように白くなります。
半夏生の頃に花を咲かせ葉を半分白く染めるため,「半夏生」と呼ばれ,「半化粧」という字が当てられたり,カタシログサ(片白草)とも呼ばれたりします。
実はハンゲショウも薬草で,全草から取れる生薬は三白草(サンパクソウ)と呼ばれ,清熱・消炎・解毒などの効能が知られます。
少々ややこしいですね。まとめておきましょう。
・カラスビシャク:雑節の半夏生の由来の植物で,雑節の半夏生の頃に花を咲かせ,地下茎から取れる生薬の名前が半夏。
・ハンゲショウ:名前がハンゲショウ(半夏生/半化粧)だが雑節の半夏生とは無関係。しかし雑節の半夏生の頃に白くなり花を咲かせる。全草から取れる生薬の名前は三白草。
「半夏半作」で田植えが終わる日であった半夏生には,各地で様々な俗信や物忌(ものいみ)が残っています。
半夏生から七夕までの5日間は天から毒気が降るため野菜の収穫をしてはならず井戸に蓋をするとか,三重県の熊野や志摩地方にはハンゲという妖怪が徘徊するという伝説もあります。
また関西では半夏生にタコを食べる習慣がありますが,これは農作物の根がタコの足のように八方へ伸びてしっかりと根付くようにという願いがこめられたもの。
奈良県などでは「半夏生餅(はんげしょうもち)」を作って田の神の供えたりします。
半夏生は,農家の人が田植えを終えて疲れた身体を休め癒やす目安であり,稲が無事に実ることを祈願する日でもあったということですね。
- Hangeshō : The eleventh day after the summer solstice :the final day for seed sowing. “Half summer student” or ” last seed-sowing day”
- Perennial plant’s name : Chinese lizard’s tail ; Saururus chinensis.